さいとうたかお「ゴルゴ13(13)」
殲滅
カリフォルニア州検事のサムは特殊警察チームはやりすぎではないかとの指摘を受ける。「人権擁護局も動いておる。犯罪者にも人権があると」「副知事閣下。シャロン・テイト殺しのマンソンをご存知でしょうな」「何を言い出すんだ」「マンソンは有罪の判決を受けた。8人も殺したんだから当然でしょう。マンソン裁判のいくらカネはかかったとお思いです。50万ドルは超えましたよ。みんな我々の税金ですぞ。カリフォルニア州は死刑を廃止している。この先、何十年もあの狂った殺人鬼を養いつづけなくちゃならんわけですよ。我々の税金でね。凶悪犯は徹底的に弾圧せよ。それが特殊警察に当たれられた任務です」「……」
特殊警察のマックはゴルゴ13の分類カードをサムに見せる。「2年前、当地で発生した「カリフォルニア軍団」のことですが、あの事件と前後して起きた「社長夫人心中事件」は奇妙に一致する点があるのです。私が独自に調査したところ、両方の事件にこの男が関係してるのではないかと」「このカードをどこから引っ張り出してきた」「市警本部の資料保管庫からですが」「これを検問するには、本部長のサインが必要なはずだ。許可はとったのか」「いえ」「このカードに記載されてあった事項は忘れたまえ」「……」「この男、ゴルゴ13はCIAでもFBIでも最高機密になっているんだ」「……」
銀行強盗を繰り返す「解放軍」に、大富豪ハーディの孫娘キャサリンが参加していることを知ったサムはハーディのところに行く。「馬鹿な。何かの間違いだ」「しかし、事件現場からキャサリンの指紋が発見されたのは動かしがたい事実でしてね」「わかった。この写真の主がキャサリンであることを認めよう。その上で君に提案がある」
サムはマックに命令する。「解放軍一味は殲滅しろ。ただし、キャサリンは無傷で救出するんだ」「キャサリンは解放軍に誘拐され、無理やり一味の仲間にされた、という筋書きですな」「ハーディ氏はキャサリンが無事に救出されたら、特殊警察に多額の寄付をするといっている。悪い話ではない」
しかし、新聞にキャサリンがギャングの一味であることが出る。サムに激怒するハーディ。「何をやってるんだ」「彼女の情報が漏れないように努力したのですよ。しかし、あれだけ派手にギャング活動をされたのでは、キャサリンのことが知れてもやむをえません」「わかった、もうわしは警察に期待せん。例の警察に寄付する話、あれはなかったことにしてくれ」
サムはマックに命令する。「意地でも解放軍は警察の手でやっつけるんだ。ハーディがなんらかの手に出る前に、我々の手で解放軍を殲滅するのだ」「キャサリンはどうするんです」「特別に考えることはない。ギャングの一員として、そのときに応じた処置をすればいい。その時に応じた、な」
マックはパサディナ郊外で解放軍が潜んでいるとの情報をゲットし、急いでアジトに向かうが、警察無線を傍受したゴルゴ13がキャサリンを除いて一味を殲滅させていた。現場に行く途中でゴルゴ13を見かけたマックは、これがゴルゴ13のしわざであると断言する。「やつはパサディナの飛行場に向かっているに違いない」「市警本部に連絡して国道を封鎖させては」「いかん。やつは俺たちの手で始末するんだ。凶悪犯としていつものように始末するんだ」しかしマックと彼の部下はゴルゴ13の前に殲滅する。
現場を見て呆然とするサム。「たった一人の男のやったことだ。ハーディがその男に解放軍一味の皆殺しを依頼した。そして見事にやってのけた。マックたちがその男と遭遇したのは不運だったよ。一味は全滅しキャサリンだけは救出された。あとは死人に口なしだ。キャサリンの行動はなんとでも申し開きできるからな」
そしてキャサリンの裁判が行われる。「わかった。わしはもう警察を期待せん」というハーディの言葉と「よくも私を殴ったり手錠をかけたりしたわね。あたしを誰だと思ってるの。鉄鋼王ハーディ家の者よ。今に思い知らせてやるから」というキャサリンの言葉が、頭の中でかけめぐるサム。
裁判で証言するサム。「被告、キャサリン・ハーディの行為は、社会秩序に対する公然たる反逆であると同時に、被告は自己の行為は脅迫されてやむなく「解放軍」に協力したと述べておりますが、数々の証言、状況証拠の示すとおり、被告自らの意志で積極的にギャングの仲間に加わったのは疑いようのない事実であります」「嘘よ。でたらめよ」「もはや、醜い言い逃れはよせ、キャサリン・ハーディ」そしてキャサリンには懲役15年の実刑がくだされるのであった。(1977年2月)
カリブの血だまり
フィンランドで若い男をハントして情事を楽しんだイングリットであったが、ゴルゴ13の銃弾を浴びて死ぬ。
フィンランドの国内治安警察のニッカネンとCIAのロバートはニューヨークでジャクソン製薬会社の社長と会う。「おたくの会社のオーナーであるイングリットさんが殺害されたことで何か心あたりは」「うちは信用を重んじる製薬会社です」「個人的にはどうです。夫人はだいぶ情熱家であったようですが」「今度のことは恋のさやあてが発展したのかも」「いやいや、そんな痴情が動機の殺人とは思えません。もっと複雑な背後関係があるはずです」「?」
「夫人の体内から検出された銃弾は国際的狙撃者の愛用の銃から発射されたものと判明したんです。社長、事情を話してくれませんか」「知らん。わしは何も知らん」ニッカネンとロバートは社長は何かを隠していると判断し、ジャクソン製薬を洗うことにする。
ニカラグア首都のマナグア。病み上がりのガンマンであるパコはパートナーであるパイロットのマノスのところに行く。「また、あんたと組むことになったよ」「なんで舞い戻ってきたんだ。せっかく足を洗うチャンスだったのに」「俺には銃しかないんだよ」
ニッカネンとロバートはジャクソン社はカリブ海沿岸諸国に営業所を持っているが、営業状況がはっきりしないので、直接現地に行き、内部告発を受ける。「ジャクソン社は政府高官を抱きこんでいるんです」医療及び各種の血漿製剤に絶対不可欠の血液の需要はますます増加も一途をたどっている。その一方、先進国では血液を確保することは難しくなってきている。ハイチやドミニカ、ニカラグア、グアテマラ、コスタリカなどの中米諸国の貧しさにつけこんで買われている血液の値段は先進国の10分の1程度だ。ニカラグアでは幼児が頻繁に誘拐され、強制的に採血されている。血を商う黒い手のしわざだ。集められた数百万リットルの血液は、米国や西ドイツに運ばれ、製薬会社がぼろもうけしているのである� ��「お願いです。あなたがたの力でこの現状を全世界に告発してください」そして、ジャクソン製薬会社の社長もゴルゴ13に殺される。
飛行機を操縦するマノスはパコにこんな仕事はやめるべきだと忠告する。忌まわしい過去を思い出すパコ。パコは献血活動を街頭で行うベロニカという娘を脅迫する。「おめえは赤十字からいくらもらっているんだ」「無料奉仕でやっているのよ。あなたも心をいれかえなさい」「いいか、よく聞け。運動をやめなきゃ、お前は」パコの手を振り払って逃げるベロニカ。思わずベロニカを射殺してしまうパコ。
ロバートはジャクソン社の営業所に行くが、途中でゴルゴ13とすれ違う。そして事務所では支配人のエンリケと用心棒のチコが殺されていた。マノスはパコに早く逃げろと忠告する。「オーナー、社長、支配人。順にきている。次はお前が間違いなくやられる番だ。お前があのベロニカって娘をやったのが発端だ。何もかもあそこから始まっているに違いないんだ。こっちには飛行機がある。お前の望むところなら、どこへでも送りとどけてやる」「俺は逃げ隠れはしないよ」「なぜ、つまらない意地を張るんだ。お前を雇ったエンリケは死んだんだ」「俺はただ、そいつと五分の勝負がしたいんだ」「相手は怪物なみのプロだぞ」「勝負はやってみなきゃわからない」
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに飛んだニッカネンはエドワルドという富豪と会う。エドワルドはベロニカの父だった。「ベロニカは立派な娘だった。何不自由ない身でありながら、恵まれない人々のために働いていた。まるで、自分が何不自由なく暮らしているのを恥じるように、な。そんなベロニカをジャクソン社のやつらは殺したんだ」「エドワルドさん。あなたはゴルゴ13と呼ばれる男と会ったことがありますか」「知らんな」「先々週、あなたは10万ドルを銀行から引き出していますね。その使途は」「答える必要を認めん」「それではひとつだけ答えてください。血はこれ以上流されるのでしょうか」「今日がベロニカの命日だ。彼女の命を奪った者が死ねば、平和になるだろう」
パコはゴルゴ13に勝負を挑むが、あっさり負けてしまう。1977年9月、東京で赤十字血液専門会議が開かれ、国際売血問題が討議された。同じころ、ベルギーのブリュッセルで開かれた国際刑事警察機構の年次総会では、ジャクソン製薬会社連続殺人事件は、いずれも事故として処理されることで出席者の意見の一致を見た。(1977年9月)
三匹の女豹
持っている銃は、テーマソングの歴史を旅する
ギリシャ中部・ピンヅール山脈のとある山の洞窟に潜むアスピダ党。そこに党員のヨルゴスがやってくる。「やられた。やられたのは同志カザンツァキスとハジダキスだ。やつらは汚ねえ。外国人の殺し屋を使って同志を殺させるなんて」「落ち着け、ヨルゴス。お前は名誉あるアスピダの党員なんだぞ」「でも、政府の手口には黙ってられませんよ。軍事政権を倒して、国を救ったのは我々アスピダのおかげじゃありませんか。それがいったん民主主義革命が成功すると、我々を邪魔者扱いにして、今度は抹殺にかかる」アスピダはギリシャ語で「楯」を意味するギリシャの伝統的な秘密結社。1967年、軍事政権下のギリシャで国家の同盟関係を破壊せんと目論んだ27名のアスピダのメンバーが処刑された。民主� ��後のギリシャでも国家破壊の陰謀を持っていると危険視されている。
将軍がヨルゴスに聞く。「同志を殺した外国人暗殺者の正体は割れているのか。ええ、ドイツ人のハンス・ウェヒナー、スペイン人のチコ・ロドリゲス、元アメリカ兵のサミー・コール、いずれも世界を股にかける殺し屋です。将軍、命令してください、わたしに奴らを処刑せよと」「それはできん。我々には山岳ゲリラという重大な任務がある。大都市アテネで我々が目立った動きをすれば政府軍の思うつぼだ。我々の中にこの任務に関して、最適任者がいる」
アテネのホテルで三人の殺し屋は娼婦に化けたメリナ、ベアトリス、イザベラの三人のアスピダ党員にベッドの中で殺される。意気揚々とホテルから出ようとした三人は、鋭い目つきのゴルゴ13を見かける。「あの男、ただものじゃないわね」「あの目の配り、身のこなし、相当なプロだと見たわ」
そして三人は洞窟に行き、仕事が終わったことと奇妙な男を見かけたことを報告する。それは世界的な狙撃者であるゴルゴ13であると断言する老師。おののく将軍。「もし、それほどの男が政府に雇われたとなれば、今度のジスカールデスタン仏大統領の親善訪問の日に決行することになっていた売国奴エレシウス元帥の暗殺計画に支障をきたすことになるかもしれん。しかし、これは本部会議で決定したこと」三人の女たちはゴルゴ13は自分たちが始末すると宣言する。
ホテルのバーで酒を飲むゴルゴ13に接近するメリナ。「東洋の方ね。東洋の方は神秘的で素敵だわ。私を買ってくださらない?体がうずいてたまらないの。わたしの主人は一か月もオランダ出張で」しかしゴルゴ13はあっさり拒否する。「おれは血の匂いのする女を抱こうという気にはならないのでな」
作戦会議を開く三人の女。「あの男はけだものよ。本能的に同類をかぎわける本能を持っているんだわ」「なんとか、こちらの意図を感じさせないで、あの男に接触する方法はないかしら。私たちの暗殺方法は相手に接触して初めて生かされる技術なんだから」イザベラは同業者として接近するしかない、と断言する。「あの男にこちらを敵だと思わせなきゃいいのよ。こちらには女という武器があるわ」
ホテルのロビーでたたずむゴルゴ13に声をかけるイザベラ。「ゴルゴ13と呼んでいいかしら」「……」「こんなところで立ち話もなんだから、あなたの部屋にお伺いしていいかしら」ゴルゴ13の部屋にはいる二人。「話を聞こうか」「私を抱いてくださらない」「……」「バーであなたが袖にしたメリナと私は仲間。そしてあなたの同業者でもあるわ。でも誤解しないで。あなたを敵と思って接近したんじゃない。メリナと私は以前からあなたのことを知っていた。そのあなたがアテネに現れた。二人は前からある賭けをしていたの。どっちが先にあなたに抱かれるか」裸になるイザベラを抱くゴルゴ13。横になったゴルゴ13の首筋に針を打ち込もうとするイザベラであったが、ゴルゴ13にかわされる。「ど� ��どうして」「仕事に移るときは人間を殺すなんて考えないことだ。でないと、筋肉の緊張をみる」ゴルゴ13はホテルの最上階の部屋からイザベラを突き落す。
そのことを知って闘志をかきたてるベアトリス。「メリナをはねのけ、イザベラも見抜いてしまった。十分にあの男のすごさはわかっている。でも、それはこっちに甘えがあったからよ。私は命を懸けて、あの男を倒して見せる」ベアトリスはゴルゴ13の運転する車の前に身を投げ出す。瀕死の重傷を負ったベアトリスは近づいてきたゴルゴ13に毒を仕込んだ爪で平手打ちしようとするが、ゴルゴ13はあっさりそれをかわし、ベアトリスはショックを受けて、あの世にいってしまう。
そしてパルテノン宮殿で行われた式典で、エレシウス元帥は射殺される。ゴルゴ13のしわざとメリナに叫ぶ将軍。「やつは何者かに依頼されてこの目的のために、このアテネにやってきたのだ。やつは最初から我々の敵ではなかったのだ」それなのに、仲間のイザベラとベアトリスを失って、ショックを受けるメリナ。
仕事を終えてアテネ空港にやってくるゴルゴ13。その前でのどをナイフで突き刺して自決するメリナ。大騒ぎになるロビー。悠然と立ち去るゴルゴ13。(1977年4月)
ピリオドの向こう
アンソニー・ウォルターはゴルゴ13に仕事を依頼する。「あなたから射撃という買い物をしたいのです」「俺から買いたい射撃とは」「実は妻のエリノアのことなのです」エリノアは肥料会社を経営する父親と元ハリウッド女優の母の間に生まれた。富と美貌に恵まれたエリノアはなに不自由なく暮らしたが、1968年に彼女がスタンフォード大学に進学し、2年上級のニコラ・セルビーと恋仲になったことが、彼女の運命を大きく変えてしまった。
ニコラはスタンフォード大学を中心とした過激団体SDSのリーダーだった。当時SDSは爆弾テロで全米を恐怖の底に陥れていた。そして1970年、ニコラはサンフランシスコで爆弾事件を起こし、FBIに射殺された。エリノアはその悲報に接したとき、彼女はニコラの子供を宿していたが、まもなく流産してしまう。
「その後、エリノアと私はあるパーティーで知り合い結婚しました。そのころSDSは表立った活動もなくなり、壊滅状態と見られました。ところがエリノアはSDSの活動資金を定期的に献金し、SDSを陰から支えたのです。それは現在も続いているのです」ウォルターはエリノアの左耳につけたイアリングを狙撃してほしいという。「私はその一弾をもって、妻への警告としたいのです。妻のSDSへの秘かな献金は、とうに警察当局の知るところでした。しかし、この街では、警察署長以下幹部と私は旧知の仲。しかし、いつか警察のテロの手が妻に伸びるのではないかと恐れています。今なら間に合います。妻に死の恐怖を味合わせて、SDSからきれいに手を引く気持ちにさせたいのです」
ヨットに乗ったエリノアに照準を合わせるゴルゴ13であったが、何者からエリノアを狙撃して殺害する。怒り狂うウォルター。「おのれ。ゴルゴ13め」ゴルゴ13はウォルターに自分は発砲していないと電話して、ウォルターの家に忍びこむ。書斎では執事のウィルソンが盗聴マイクをチェックしていた。「やはり、ウォルターの俺への依頼はすっかり聞かれていたんだな」「!」「誰に頼まれて、こんなことをした」ウィルソンはマイクを仕掛けたことをウォルターに告白する。
ウォルターは親友のコンラッド警部をヨットに招く。「どうしたんだ。こんなところに呼び出して」「確かめたいことがある。エリノアを撃ったのはゴルゴ13じゃないらしいんだ」「どういうことだ」ライフルをコンラッドにつきつけるウォルター。「エリノアを殺した者がほかにいるということだよ。君がウィルソンに命じて私の部屋に盗聴マイクを仕掛けたことはわかっているんだ」
「そうか。しかし、あれは大事な仕事だったんだ。死んだエリノアがSDSの支持者だったことは君も知っていた。多額の資金援助をしていたことも。我々はエリノアの正確な動きを知る必要があったんだ。そこでウィルソンに協力を頼んだ。君の旦那のためになること、と説得してな」「エリノアをその手で殺したのか」「馬鹿なことをいうな」「盗聴マイクで聞いたのはエリノアの秘密だけじゃなかった。私がゴルゴ13に依頼したこと、ゴルゴ13のために用意された時間まで、盗聴されてしまった。そこにエリノアの存在を喜ばない者にとって、絶好のチャンスが生まれたんだ」
ウィルソンはコンラッドの左耳にエリノアのイアリングをつける。「ちょうど昨日の今頃、君が立っているあたりで妻のエリノアは命を絶たれた。君の撃った凶弾によってな」「やめろ。馬鹿な真似はよしてくれ」「動かないほうがいい。ゴルゴ13にも万一ということが、なきにしもあらずだ。もっとも私はそれを願っておるのかもしれんが」「やめてくれ。この距離じゃ、いくらヤツがA級の狙撃者でも。おまけに横風じゃないか」「……」「確かに殺ったのは俺だ。命令だったんだ。やめてくれ」
ゴルゴ13の銃が火を噴く。銃弾は見事にイアリングに命中する。がっくりと膝をつくウォルター。「エリノア」(1977年10月)
神に贈られし物
大統領指名大会が行なわれる街にやってくるFBIのダッチェス。そのころゴルゴ13はプラスチックの拳銃を所持していたということで警察に連行される。ダッチェスはゴルゴ13を見て顔色を変えて、部下に命令する。「あいつをマークして、チャンスがあったら、所持品の一切を調べろ」
何が私たちのギャングスパンキーブッチalfafaに起こった
指名大会の行なわれるスタジアムの近くで射的場で射的をするゴルゴ13。その間にダッチェスの部下は、ゴルゴ13の車をチェックする。「怪しまれないように車の中から小物を失敬して、チンピラの車荒しに見せかけます」ゴルゴ13は近くの警官に車荒しにあったと報告する。「被害はライターとサングラスとプラスチックのオモチャだと言っています」「変だな。オモチャは盗んでないぜ」
ゴルゴ13は風船をかかえてスタジアムにはいる。入口でボディチェックを受けるゴルゴ13は、スタジアムにはいると風船の中からプラスチックの拳銃を取り出し、スコアボードからターゲットの男を射殺する。そしてダッチェスはゴルゴ13の背後に回りこむ。ダッチェスを殴るゴルゴ13。「この男を公務執行妨害並びに傷害現行犯で逮捕しろ」ダッチェスはゴルゴ13が足音をたてずに自分の後ろに立つことを許さないことを知っていた。
警察署にしょっぴがれるゴルゴ13。「その男の上着から硝煙反応が出ました」「そうか。困難な射撃条件、アリバイなし、硝煙反応。これで電気椅子に一歩近づいたな」「動機は?」「この男はプロです。動機なんた問題じゃないです。あとは凶器の発見です」ゴルゴ13は弁護士を呼んでくれと要求する。笑い飛ばすダッチェス。「いいだろう。呼んでやるとも。わが国では不利になったとき、自由に弁護士を呼べるからな」
そしてダッチェスはプラスチック製の拳銃で実弾の発射が可能なことをつきとめる。「捜査官。それじゃあ、ヤツはプラスチックのおもちゃの拳銃で」「ヤツにとって一発の弾丸が使用できれば、それで十分なんだ」そしてゴルゴ13の弁護士がやってくる。凶器さえ発見できれば問題ない、と自信を見せるダッチェスであったが、凶器を見つけることができない。
弁護士はダッチェスを呼ぶ。「本人は暴力を振るったことを非常に後悔しております」「暴力?」「彼の罪は公務執行妨害と傷害でしょう」「あ」「いかかでしょう。ここは罰金程度でお許しを」「……」「あなたが告訴するというなら、こちらも人権蹂躙で訴えます」「人権蹂躙?」「あなたが私の依頼人にかけている殺人に対する容疑ですよ」「なに」「容疑の決め手になっている硝煙反応ですが、彼が会場にはいる前に射的をした事実をご存知ですか」「な、なんだって」「射的場はヒマだったから、経営者は覚えているでしょう」「……」
「さて、アリバイの件ですは、あの興奮した大群衆の中で、誰が周囲の人間を気にしています?」「……」「おまけに凶器がない。あの会場にはいるには厳重なボディチェックがあったはずですね。金属探知機まで。私の依頼人は問題なく通過したそうじゃありませんか」「凶器は金属とは限らない。やつはプラスチックの拳銃で被害者を射殺したのだ」「そのオモチャの拳銃が発見されたのですか」「もうすぐ発見してみせる」
「彼は確かにオモチャの拳銃を持ってましたが、車からサングラスとライターと一緒に盗まれたと言っています。これは、今日の警察報告に記されているはずです」あわてるダッチェスの部下。「これは計画的です。我々がヤツの車から失敬したのは、サングラスとライターだけです」「ほう、私の依頼人にそんなマネをしたのですか。これは人権蹂躙だけではすみませんなあ」
ダッチェスは何故拳銃が見つからないのか、と思うが、ゴルゴ13が風船を持っていたことを思い出す。「空軍だ。空軍に依頼してください」「どうしたんだ」「風船だ。ヤツは風船に凶器をくくりつけて空に放したんだ」「無理だな。もう日が暮れている」「弁護士を呼んだのは、俺に観念したと思わせて、風船に頭がいかないようにし、時間を稼ぐためだったんだな。そうだろう、ゴルゴ13」弁護士と出ていくゴルゴ13。「凶器は神の御手に委ねられたか」(1976年12月)
独裁者の晩餐
エチオピアの首都アジスアベバで、アフリカ統一機構会議が行なわれる。「アフリカ諸国の共通の敵はアメリカ帝国主義とシオニズムである。ふたつはアフリカ大陸に対する再侵略を開始するはずだ。従ってアフリカ諸国は、一致団結してこの敵にあたらねばならない。反撃の総司令は、このイジ・アミンが努めよう」会議を終えたアミン大統領に群がるジャーナリスト。「ジミー・カーターは国際政治にあまりに無知だ。私が彼に政治学を教えなきゃダメだな、そのかわり、授業料は高いぜ。テキサス州をもらうかな。はっはっは」「イギリス政府がアミン大統領閣下の最近の行動を極めて不愉快と考えているようですが」「イギリスは没落いっぽうで嫉妬深くなってるのさ。このままじゃ英連邦は分解してしまう。私� ��英連邦の盟主になれば、全てがうまくいく。エリザベス女王なんて婆さんが、英連邦の盟主のうちはダメさ。はっはっは」
ロンドンでロンドン警視庁のセワード警部とフランス秘密警察のボッシュ警部が会う。「ゴルゴ13から、まだ連絡はないかね」「彼はウガンダに潜入中だ」「ウガンダの情勢はひどい。ナグラ刑務所での大量殺人事件、ナマンベの森の虐殺、ナカペリンの森の殺戮。どれもすごい」「それにツェツェバエが異常発生している。森の中に山と築かれた死体の中にツェツェバエが卵を産み落とし、死体を栄養に異常発生している」「しかし、どういう事態であろうとゴルゴ13は3日以内に私のところに来る。今度の仕事は英仏両国のプロジェクトで金額もでかい」「彼が来なければ、ヨーロッパは重大な危機に見舞われる」
ツェツェバエにやられたゴルゴ13は、命の危機となるが、密林の中にある村人に救われる。その村では古くから伝わる眠り病用の薬があった。ゴルゴ13は生物学の研究者でツェツェバエを採集していると名のる。その村は反アミンのゲリラの拠点になっていた。村長のジョンガは首都カンバラに向かって進撃するとゴルゴ13に言う。「我々が蜂起すれば、反アミンのゲリラ部隊がいっせいに蜂起する」「通りすがりの生物学者に、そんな重要なことを話していいのか」
「これは重要なことでない。この村が反アミンのゲリラ組織の拠点であることは誰も知っている。この村を囲むジャングルの地形は相当厳しく、猛獣も多い。またこの地域一帯には物凄い数のツェツェバエが発生した。ツェツェバエの治療の秘薬は我々しか知らん。いまや、この村は天然の要塞なのだ」ジョンガの娘のジョルはゴルゴ13のために、ツェツェバエを捕まえてくる。
ジョンガはゴルゴ13が潜んでいた洞窟から、銃器類を発見する。「生物学者にしては物騒なこの持ち物はどういうことなのか」「……」「わしは最初からわかっていた。この男はただの学者ではないことはな」ゴルゴ13は拷問にかけられるが、無言を通す。あきれるジョンガ。」(こいつは化け物か。ツェツェバエにやられて十分に回復していないののに、これだけの拷問を受けて気絶もしないとは。こんな人間は早く始末したほうが賢明だ)
アミン大統領の側近は、ジョンガ殺害のためにゴルゴ13を雇っていた。「彼との約束は今日の夕刻まで。ナイル川畔のスコンボで彼の報告を聞くことになっています。今日の夕刻、スコンボで会えるのは生きたゴルゴ13か、それとも死体か。これまでの例では、ジョンガは我々の送り込んだ刺客を始末した場合、丸木舟で死体を流すのが通例です」「その男がジョンガを始末して帰ってきたら、その男は大変な勇者だ。そんな勇者の活力を、わしのものにしたいものだ。このイジ・アミンのものに」
ゴルゴ13はマシンベの丘に連れて行かれ銃殺されそうになるが、銃に細工してジョンガを倒し、スコンボに行くが、銃に囲まれる。「なんのつもりだ」「勇者の肝を食べると、勇者の持つ活力が注入されるという。あんたの肝をもらって、アミン閣下の晩餐に供させてもらうのだ」「その前にジョンガを始末した証拠の品を改めなくていいのか」「ん」「船の中のバスケットの中身を見ればわかる」そこからツェツェバエの大群が。スキをつかれたアミンの部下を倒すゴルゴ13。
ロンドン。「もう、そろそろ約束の時間だ。彼は現れない」「緊迫したウガンダの情勢とはいえ、ゴルゴ13は約束を破る男ではないのだが」しかしゴルゴ13はすでに現れていた。「おお」「用件を聞こうか」(1977年7月)
おろしや間諜伝説
自衛隊幕僚庁会議室でゴルゴ13について説明する内閣調査室海外保安局長の若槻。「この男こそ、暗闇の世界の膠着状態を突破する最大のエース。彼をもす日本政府の専属にすれば、外交上の行き詰まり、反体制運動、暗黒街の動きを支配することが可能です」「しかし、CIAもKGBもみんな彼を専属にしようとして断られたんでしょう。彼をどうやって縛り付けるのです」「ゴルゴ13を脅迫するのです」「!!」
若槻はロシア人の写真を一同に見せる。「この男は、アクレセイ・スメルジャコフです。彼はスポーツ万能の軍人で、100メートル、水泳、馬術、射撃の4種目で1916年のベルリン五輪に出場する予定でした。しかし1914年の第1次世界大戦勃発により、ベルリン五輪は中止。1917年にロシア革命が起こると、革命軍と戦い、革命軍の勝利によって日本に亡命しました。日本に上陸した彼は猛烈な反ソ運動を開始。共産主義の浸透を恐れ始めた当時の日本政府は、彼を積極的に利用しました」「……」
電子メール経由でビリー·ジョエルに連絡する方法
「しかし、日本政府は1939年にノモンハン事件が起きると、彼に対する警戒心を強めます。彼は逆スパイでないかと。そして、彼を函館に軟禁します。このとき、彼を監視する役目を命令されたのが、小柳美沙という女性です。彼女は当時の日本関係者からミッサーシュミットという暗号名で呼ばれた外務省直轄の女間諜です。彼女は語学の天才で、海外のスパイ活動に従事していました。そしてスメルジャコフの監視を命じられたのです。夫婦関係を結び、彼の行動を報告するようにと」「なぜです」
「残念ながら、その理由はわかりません。そして二人の間に子供が生まれ、二人は戦後のどさくさに紛れて、姿を消します。しかし1956年日ソの外交が復活すると、二人は彼らの子供と思われる少年を伴って、ナホトカ行きの船に乗り込んだのです」その少年を見て、子供時代のゴルゴ13と叫ぶ一同。「この少年はゴルゴ13に酷似していますが、調査はまだそうだと断言できるにいたっていません。ただし、スメルジャコフとゴルゴ13は非常に酷似した言動があります。ゴルゴ13の射撃の腕や抜群の運動神経はスメルジャコフから、卓抜した語学力は母親の美沙から受け継いだものと考えられます」「……」
「つまり、現段階ではゴルゴ13がスメルジャコフと小柳美沙の息子である可能性は85%。我々はその可能性が95%に高まったとき、ある行動を起こそうと思います」「彼の出生の秘密を暴いて、何の役にたつのです」「彼の出生の秘密がわかれば、彼の弱味も明らかになるでしょう」「?」「ゴルゴ13は一年のうち一ヶ月はいかなる行動も停止します。実はスメルジャコフもそうなのです。それは持病のためでした。スメルジャコフはその期間に右半身が麻痺し、半身不随の状態となるのです」「もし、ゴルゴ13がスメルジャコフの息子なら、彼もそういう時期が年に一度はあるということですな」「その通りです。この弱味を脅迫に使い、彼を日本専属にしようというわけです」命令する総理大臣。「彼を専� ��化する必要がある。そのためには内閣調査室では不十分だ。自衛隊幕僚庁特別捜査局の手を借りねばならんのだ」
能代三尉はオデッサに行き、スメルジャコフの兄のイワンに会うが、イワンもろとも射殺される。本島三尉はスメルジャコフの墓に行く。(この墓を暴けば、スメルジャコフの骨が手に入る)しかし棺の中は空だった。呆然とする本島は何者かに射殺される。そのころ新潟の海岸で、一人のロシア人の死体が発見される。それはKGBの大物スパイのチョムスキーの成れの果てであった。
ソ連から帰国した渡辺三尉は上司の岩淵二佐とともに報告する。「スメルジャコフは日本を離れて、ひとまず弟のいるウクライナに身をよせました。それから彼はカザフ共和国にむかいました。その後、例の息子は行方不明になり、スメルジャコフは小柳美沙と二人で暮らし、1962年に死亡したようです。スメルジャコフと死別した小柳美沙は現在北海道にいる模様であります」報告を終えた渡辺は何者かに射殺される。
宮内三尉は小柳美沙は函館郊外で発見し、軍用機に乗せるが「残念だね。ミッサーシュミットを連行できなくて」という言葉を残して、美沙は飛行機から飛び降りて死ぬ。横田基地についた軍用機は狙撃され、宮内は死ぬ。岩淵は部下が殺されたのはゴルゴ13のせいだとおののく。「彼が自分の出生の秘密を知られるのを恐れて殺した」そうではないという若槻。「死んだチョムスキーのカバンに情報文書が入っていました。それによると死んだ四人はKGBの暗殺リストにはいっていました。つまり、スメルジャコフの件がなくても、彼らは死ぬ運命にあった」「KGBの依頼で、ゴルゴ13が四人を始末したというのですか」「それはわかりません」
若槻は殺された四人がタイミングよく殺されているのに不信感をもち、岩淵に尾行をつけ、岩淵が死んだと思われていたスメルジャコフと接触している事実をつきとめる。岩淵は逮捕され、スメルジャコフは車を奪って逃走するが、運転中に右半身が麻痺し事故死する。
岩淵はソ連のスパイであることを認める。「KGBから四人の局員の暗殺を補佐するよう頼まれた」「KGBが送り込んだ暗殺者がスメルジャコフだったわけだな」「そうだ。ヤツは戦前、猛烈な反ソ運動をしていたが、KGBはスメルジャコフを洗脳し、KGBの狙撃者に仕立て上げたんだ」
「小柳美沙が帰国したのは」「彼女は故郷で余生を送りたがっていた。スメルジャコフはこの仕事を最後に日本で暮らすつもりだった」「彼女が自殺したのは」「スメルジャコフの正体が割れ、やつが自殺したと思ったんだな」「で、例の二人の息子は」「殺された。スメルジャコフの手で。彼に反旗を翻したために。スメルジャコフの墓には息子が埋められていた。そして本島がカザフに行く前に、骨を盗んだんだ」「スメルジャコフの息子がゴルゴ13でなかったことは最初から知っていたんだな」「今度の件に、ゴルゴ13は何の関係もない。ただ彼のせいにすれば、都合がよかった」そして岩淵はゴルゴ13に射殺される。うめく若槻。「KGBにこの後始末を依頼されたんだ」(1978年1月)
チチカカ湖はどしゃぶり
「これが3700メートルという世界最高地に首都ラパスを置くボリビアです。インディオの生活は楽じゃない。この国の主な産業といえば、地下資源のスズ。そして、このスズの利権は全面的にアメリカ、わがUSマイニング社にはいっています」「ボリビアの経済便覧はそれくらいにして本題にはいってくれ」画面に髭の男が。「この男がボリビアの陰の大統領と言われるサントスです。表面的には、この男はボリビア陸軍の総司令官に過ぎませんが、実際にはボリビアの全てを牛耳っているといえるでしょう。何事も表面に出たがるラテンアメリカ人の中で、彼は珍しく黒幕タイプです」「……」
「この男は、CIAと我が社が最大の実力者に仕立て上げたのです。しかしサントスは方針を変えました。大統領を動かし、ボリビア全鉱山の国有化を始めたのです。それはどうやらソ連の画策のせいらしいのです。ところがウォーターゲート事件以来、CIAは手荒なことができない。サントスが大統領に鉱山の国有化を宣言されたら、わがUSマイニング社は破産する。このサントス陸軍司令官を始末して欲しいのです」「……」
「サントスは非常に猜疑心が強く、首都ラパスにいるときは、大勢の将校に取り囲まれ、手は出せません。しかし彼には妙な習慣があって、週末には必ずチチカカ湖近くで過ごすのです。しかし彼は別荘にいるときも絶対に警戒を緩めません。別荘のまわりを常時数十名の警備兵に見張らせています。その上、いざと言うときの逃走用に別荘のすぐそばの飛行場にジェット戦闘機を待機させているのです。だが、少なくともここでは彼の行動の時間と場所ははっきりつかめます」ゴルゴ13はサントス殺害の依頼を承諾する。
ラパスに行ったゴルゴ13は、ボリビア政府に反対する革命評議会にスパイとして潜入しているカルロスを捕まえ、サントスの別荘について必要な情報をしゃべらせる。「別荘には誰も近づくことは出来ん。完全な要塞だ」「別荘でのサントスの生活で、彼の行動に不審なことはなかったか」「そういえば、必ず熱心に天気予報を聴いていたな」ゴルゴ13は次に天気予報のキャスターを締め上げる。「お前の放送する天気予報の最中、放送部長から特別な指示があれば、放送中に特別なメッセージを読み上げることになっているだろう。そのメッセージの内容を聞かせてもらおう」「放送中に、「チチカカ湖はどしゃぶり」とアナウンスすることになっている。それは何を意味するか知らない」
サントスは自分をゴルゴ13が狙っていることを知る。「やつがわしを狙ってくるとすれば、この要塞にいるときだ。わしが別荘を引き上げようとして、ジェット機に乗り込む地下入口からジェット機までの滑走路上だな」サントスは腹心のモレノに引き上げの際に、警備兵の全てを滑走路周辺の警備をさせるように命令する。
ゴルゴ13は女を使って、サントスのジェット機のパイロットであるホルヘを捕まえ、彼に成りすましてアマチュア無線愛好家のペペと接近する。「ボリビア陸軍親衛隊、ホルヘ・クレスポだ。これから話すことはボリビア陸軍の軍事機密に関することで、サントス閣下の極秘命令でやったきたのだ。くれぐれも心して聞いてくれ」「は、はい」「明朝8時3分きっかりに、君の無線機の中にこのクリスタル端子を装着し、このカセットテープを流してくれ。失敗は許されない。このことを他言すれば軍事法廷が君を待っているだろう」「……」「8時3分きっかりだ。いいな」「はい」「それと、もう一つ頼みがある。これは奥さんに協力してもらうことになるが」「はあ」
翌朝、山頂に行くペペの妻と子供たち。「まだなの。まだタコをあげないの」「もうすぐよ」「このタコ、紙と違ってアルミ箔が張ってあるけど。こんな重いタコあがるかなあ」「大丈夫よ。今日の風速を計算して作られているんですって。いいね。これはお父さんの命にかかわることなんですからね。しっかりやってちょうだい」「大丈夫だよ。俺たちタコあげじゃあ天才なんだから」
8時になり子供達はタコをあげる。サントスは天気予報を聞くが、タコのために電波障害が発生する。ペペは3分に「チチカカ湖はどしゃぶり」というメッセージを流す。空電現象が起きているとサントスに報告するモレノ。「空電現象?なんだそれは」「何かの理由で電磁波が妨害されています。つまり空に金属物が浮かんでいるときに起こる現象です」「同じ放送を短波でも流しているはずだ。チャンネルを短波放送に切り替えろ」
そこで「チチカカ湖はどしゃぶり」というメッセージを聞き、蒼ざめる二人。「革命か」「クーデターかも。とにかくラパスで緊急事態が発生したことは確かです」サントスはアルゼンチンに飛ぶとモレノにいう。「はっ。しかし、パイロットのホルヘを待機させていませんが」「馬鹿者。やつは送り迎えの運転手でいい。お前は自分の前身を忘れたのか」「はっ。わかりました」
ゴルゴ13を警戒しながら、ジェット戦闘機に向かうサントス。ゴルゴ13に襲われる雰囲気がなくて、ほっとするサントス。(いかにゴルゴ13でも、この警護ではどう対処しよもなかったと見える)しかしジェット機ではホルヘになりすましていたゴルゴ13が操縦席で待っていた。あっさりモレノとサントスを射殺して、ジェット機を発射させるゴルゴ13。それを見て喜ぶペペの子供達。「あ。ジェット戦闘機だ」(1977年9月)
焼けただれた砂
サウジアラビアのダハラーンはペルシア湾に臨む人口2万の石油都市である。病院、映画館、レストラン、バーの備わったアメリカ式の人工都市で、住民の大半はアラムコ(アメリカン・アラビアン・オイル会社)の従業員である。
バーで飲んだくれるリリイを注意するバーテンダーのジョージ。「いい加減にしな。昼間っから」「ほっといてよ。大きなお世話さ」「バンバーからの連絡はないのかい」「ないよ。なくて幸いさ。あんな薄情な顔のヤツなんか見たくないや」夜になってバーで弾き語りをするリリイ。それを見つめるゴルゴ13。あの男また来てるぜ、とリリイに言うジョージ。「あんたの歌が終ると、すぐに帰ってしまう。あんたに相当ご執心だな」「ふーん。物好きな男だねえ。でも、あたしに声をかけようとしないのは、感心だね」「あれが東洋人の礼儀正しさなんだよ」
そしてリリイはゴルゴ13に自分から声をかけ、一緒に酒を飲む。そして酔ったリリイは強引にゴルゴ13に抱かれてしまう。翌朝、ゴルゴ13のたくましい身体にすがりつくリリイ。「あたしね、ラスベガスやブロードウェイのステージで歌うことが夢だった。それが都落ちもいいところさ。もうスターになろうって夢はあきらめたよ。ね。今夜も店へ来てくれるわね」「ああ」「ほんとね」
ジョージはリリイにバンパーから電話があると伝える。ゴルゴ13に抱かれながら相談するリリイ。「ここから逃げ出したいの。この国からあたしを連れ出してちょうだい。もう、こんな砂漠の国なんて沢山。ねえ、お願い」「バンバーから現れたのか」「ど、どうしてそれを。誰から聞いたの。そうか、ジョージのやつね。あいつ、男のくせにおしゃべりなんだから」「バンバーというのは、どんなやつだ」「それは言えない。言ったら殺される」「……」「これだけはいえるわ。バンバーは冷酷で残忍で嫉妬深い恐ろしい人間よ。あんたのことが知れたら、ただじゃすまない。お願い。二人で逃げて」「バンバーはいつ帰ってくるんだ」「明日よ。明日の正午、タンヌーラ港に船で着くわ」「……」「このままでは、� ��人ともバンバーに殺されるわ。あたしと逃げて」「……」
ゴルゴ13は依頼された仕事を思い出す。「先月、イスラエルで起きたキブツ爆破事件とベイルートで起きた商店爆破事件は君も知っていると思う。表面上はパレスチナ・ゲリラと、それに対するイスラエルの報復になっている。だが実際はCIAの一部の人間と武器商人たちが組んで引き起こした謀略なんだ。絶えざる緊張を中東に作り出しておくためにな」「……」「なにしろ、中東は武器商人たちにとって最大の得意先だからな。武器商人のフォルコとヘンリーはわがイスラエル情報局が始末した。残るはCIAの一員でバンバーと呼ばれる正体不明の男だ。この男が君に依頼したい標的だ。このバンバーはイスラエルとしても極秘のうちに処理したいのだ」「……」「バンバーのことで判明しているのは、タバラ� ��ンにリリイという恋人がいることと、ジョージというバンバーの連絡員がいるということだ」ゴルゴ13に抱かれ、もだえるリリイ。「あああ。あんたが好きだ。あんただけだ」
翌朝の正午、タンヌーラ港に行ったゴルゴ13は、気の強そうな女に声をかける。「バンバーだな」「!」「……」「誤魔化しが通じそうもないわね。ゴルゴ13。教えて。どうしてバンバーが女だとわかったの」「敵を知るには、その敵と寝た相手を知ることだ」「!!」「人間、寝た相手には自分の癖をつけているものだ。もっともお前さんの場合、レズだったのにはとまどったが。リリイは見事にそれを身体で立証してくれたよ」
バンバーをナイフで刺し殺すゴルゴ13は、船に乗る。そしてリリイは来ないゴルゴ13を待って、駅のプラットフォームにたたずむのであった。(1976年3月)
チャイナ・タウン
サンフランシスコのチャイナ・タウンでは連日血生臭い事件が起きていた。焦るサンフランシスコ市警察。「我々は鎮圧にあたっている。しかし、中華街での中国人同士の抗争はエスカレートし、今や手のつけられない状態になっている。中国人は歴史的に地下室や秘密の部屋を作るのが好きだからな。中華街は迷路に等しい。その上、独特の民族感情で内輪の紛争は内輪で片付けるという習慣が徹底している」「……」「なにしろ、抗争の原因は、国際的なところにあるんだ。中国派と台湾派の最後の確執なんだ。ニクソン訪中以来、台湾派は危機感を強めているし、華国鋒体勢の固まった中国派として、一気に台湾派を叩こうとしている」「それじゃ君は中華街の騒ぎを放っておくというのか」「努力はしてる。アジ� ��人のことはアジア人にまかせようと、特別捜査班を組ませた。アンドリュー・ヤマシタ警部をリーダーにしたこの組織は大いに期待できると思う」「……」
ヤマシタは中国派の指導者が東洋旅行公司の会長であるジャック・王であることをつきとめる。「だが、台湾派の指導者がどうしてもつかめん。わかっているのはバット・張という名前だけだ」「彼の正体がわかれば、打つ手はありますか、警部」「ある。両派の指導者さえ除けば、中華街の抗争はいったん停止するだろう。いったん、な」「しかし、指導者だけ逮捕しても、そううまくいきますかね」「ふたりの指導者は死ねば、両派はカジを失う。そうすれば、両派は休戦状態にはいるだろう。その時、我々は中華街の徹底した大掃除ができる」
そしてゴルゴ13は台湾人周竜明を名乗り、チャイナ・タウンの安ホテルにやってくる。ゴルゴ13はハンク・趙の写真をホテルの老主人に見せ、この男を探していると告げる。そのニュースは台湾派のボスであるトーマス・劉の耳にはいる。ゴルゴ13は中華料理屋で太極拳を使って大暴れをする。中華料理屋にやってきたヤマシタ警部はゴルゴ13に質問する。「このチャイナ・タウンで見かけない顔だが」「今日、台湾からついたばかりだ。名は周竜明」「職業は」「台北で太極拳の道場をやっていた」「……」
トーマス・劉はハンク・趙に周竜明のことを知っているか聞く。「俺が野試合で倒した男の弟に、竜明という名前の男がいた」ヤマシタは周竜明はゴルゴ13に間違いないと断言する。「ゴルゴ13はこのシスコになんの目的でやってきたのか。それが問題ですね」「うむ。一刻も早く、彼の目的を知ることだ」
ゴルゴ13はトーマス・劉のところに連れて行かれる。「私がシスコの白竜結社のリーダーだ」「リーダーはバット・張だと聞いていたが」「バット・張はリーダーというより、長老だ」「ま、そんなことはどうでもいい。俺の会いたかったのは、そこにいるハンク・趙なんだからな」「……」「俺の用件はわかっているな」「うむ」戦いを始めるゴルゴ13とハンク・趙であったが、共産党のアジトを襲う仕事がはいったため、戦いは中断する。ゴルゴ13はハンク・趙とともに共産党のアジトで大暴れし、白竜会の用心棒に雇われる。
ゴルゴ13はホテルの老主人に声をかけられる。「あんた、白竜結社に雇われたんだって」「……」「あんな連中にかかわらんことだ」「……」ヤマシタはゴルゴ13に接近する。「あんたの狙いはバット・張だな。これを殺害するために白竜結社に接近したのだ」「……」「わたしはあんたに協力したい。あんたがバット・張を始末する時、我々は中国派の指導者、ジャック・王を始末する」「わかった。その時がくれば連絡しよう」
そしてゴルゴ13は共産側の幹部の一人であるチャールス・揚を抹殺する仕事を依頼される。チャールスはバット・張の正体を知っているという。ゴルゴ13はバット・張の正体を教えれば命は助けるという。「私が教えてやろう」安ホテルの主人がトーマス・劉とともにやってくる。「安宿の老主人か。いいかくれみのだ」「ほう。あまり驚かないところを見ると、これが罠と気づいておったのか」「新参者を使うにしては、あまりに不用心な使い方だったのでな」
ゴルゴ13に詰め寄るトーマス・劉。「きさま、いったい何者だ。誰に頼まれて、バット・張をさぐりにきた」「この男はプロじゃよ。簡単に口は割るまい。ハンク・趙の到着を待って、じっくりを口を割らせるんじゃな」しかしゴルゴ13は一瞬の隙をついて、トーマス・劉とバット・張を眠らせて、ヤマシタ警部に連絡する。「その時は来てしまった。バット・張は俺の足元で壊れた人形になって横たわっている。そっちの仕事も急いだほうがいい」
電話が終わった瞬間、ハンク・趙がやってくる。「周竜明。貴様」「俺は周竜明じゃない」太極拳を見舞おうとするハンク・趙を射殺するゴルゴ13。「お前のお遊びにつきあってやれなくて悪いが、俺は、こっちのほうが専門でな」そしてヤマシタは約束通り、ジャック・王を始末するのであった。(1978年4月)
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