2012年4月24日火曜日

「コミュニティを育て、未来をつくる」ー 震災から1年、「石巻2.0」の今を訪ねました。 | Greenz.jp グリーンズ


石巻中央商店街(2012年3月26日撮影)

半年ほど前にgreenz.jpでご紹介した、新しい石巻をつくるプロジェクト『石巻2.0』。その現場を肌で感じるため、震災から1年経った3月下旬、宮城県石巻市を訪れました。

彼らが活動拠点とするのは、石巻駅からほど近い市街地・石巻中央地区。そこには、「復興」から一歩先のステージへ歩みを進めようとしている人々の姿がありました。

石巻中央商店街の風景(2012年3月下旬)

人々が集うビズカフェ「IRORI石巻」

私が最初に訪れたのは、『石巻2.0』プロジェクトの新しい拠点「IRORI石巻」。石巻駅から徒歩10分ほど。気軽に入れる雰囲気のオープンスペースには、WiFiと電源が完備されていて、いわゆるコワーキングスペースとしての利用も可能となっています。

この日も、PCで作業をしたり、打ち合わせをしたりする人々の姿が。300円でコーヒー飲み放題といううれしいサービスもあり、石巻で復興プロジェクトやビジネスに携わる人たちが集まるコミュニティづくりの場としての役割を果たしているようです。

ワーキングスペースに欠かせないコーヒーは300円で飲み放題!

全国へ発信するモノづくり拠点「石巻工房」

「IRORI石巻」の奥からは、時々木材を削る機械音が聞こえてきます。「石巻工房」と名付けられたここは、昨年、市民のためのDIY拠点としてスタート。地元高校生によるイベントや地域住民のためのベンチ製作、アメリカの家具会社ハーマンミラーによる商店街用ベンチのワークショップを経て、オリジナル商品「石巻ベンチ」と「石巻スツール」が誕生。現在は、インターネットでの受注販売も行っており、地元の方のみならず、全国へ発信するモノづくり拠点として稼働しています。

「石巻工房」工房長の千葉隆博さん

一つひとつ丁寧に加工が施され、強度も抜群のベンチやスツールには、全国から続々と注文が寄せられており、工房はいつもフル稼働状態。この日も、梱包作業に追われるスタッフの方の姿が見られました。

「石巻工房」の焼印が入ったベンチとスツール

約2,000冊の雑誌がずらり!「コミュニティカフェ かめ七」

「IRORI石巻」の道を挟んで向かい側、50メートルほど歩いたところで発見したのは、オープンを間近に控えたコミュニティカフェ「かめ七」(4月8日にオープンしました!)。

約2,000点の雑誌がずらり!


ニック·ロビンソンは何歳ですか

震災後、石巻の中心地に一度でも訪れたことのある人は「かめ七呉服店」をご存知だと思います。いち早く店を開け、復興グッズや震災直後の写真を展示。ご夫妻のあたたかい人柄も手伝って、ボランティアたちが帰って来る「家」のような場所となっていました。

そのご主人が長年保管していた雑誌・約2,000册を自由に閲覧できるようにしたのが、今回オープンした「コミュニティカフェ かめ七」。1970〜80年代の懐かしの雑誌の数々がずらりと並ぶオープンスペースとなっています。日本雑誌協会がデジタル端末による雑誌コンテンツ提供も行うとのことで、ますます多くの人が集まる場所となっていくことでしょう。

70〜80年代の貴重な雑誌が勢揃い!

コンドミニアムタイプの2号室「復興民泊room002」

その「かめ七呉服店」の2階にオープンしたのが、前回の記事でもご紹介した復興民泊の2号室「room002」。

空き部屋を再生して宿泊場所にする仕組み「復興民泊」は、ボランティアや観光客など様々な方が訪れるようになり、現在、週末はほぼ満室の状況なのだとか。今年1月にリニューアルオープンした「room002」は、ドミトリータイプになっており、男女各6名ずつ、12名まで宿泊可能。シャワーもついて快適さもアップし、訪れる人々が互いに情報交換しあう交流の場所にもなっているようです。

復興民泊 room002

その後も、「復興商店街」など街の変化を感じながら中央商店街を巡り、ビズカフェ「IRORI石巻」に戻ってみると、そこでは、フリーペーパー「メトロミニッツ」のクリエイティブ・ディレクター菅付雅信さんによる「編集」をテーマにしたレクチャーが行われていました。客席で真剣にメモをとっているのは、商店街の店主や支援活動に携わる方々。続く第2部では、石巻でフリーペーパーの編集に携わる編集長とのトークセッションも行われ、編集トークで会場は大いに盛り上がりました。

『石巻2.0』の今とこれからは? 飯田昭雄さんインタビュー

私がこの日、目にしたのは、ここが被災地・石巻であることを忘れてしまうような活気ある光景。もちろんこれは石巻のある一面に過ぎませんが、そこには人が行き交い、集い、何かを生み出そうとする熱のようなものをはっきりと感じ取ることができました。それは、「復興ボランティア」と呼ばれる方々とはまた違うもののように感じたのです。

これらの動きの先頭に立ち、地元の人や他団体を巻き込みながら次々にプロジェクトを起こしてきたのは『石巻2.0』のみなさんです。前回インタビューをさせていただいてから半年。2月には一般社団法人として新たな歩みをはじめたプロジェクトの今とこれからについて、理事の飯田昭雄さんにお話を聞きました。

「石巻2.0」飯田昭雄さん

あのジャスミン革命の人たちも!?世界中から人が集う場所に

まず、今の石巻中央地区の状況について聞きました。


私は爆弾を愛することを学んだ方法

石巻中央では交流人口がすごく増えています。ヨルダンやエジプトをはじめ中東からジャスミン革命を起こしたような人たちも、見学に来たんですよ。海外からの訪問も多いですし、日本で各ジャンルで第一線で活躍しているような人も来る。復興地方都市における世界のフロントラインになっていると言ってもいいくらいです。

でも一方で、石巻で活動するNPOの人が打ち合わせしていたり、地元のおばちゃんがお茶を飲んでいたり、大家さんが麻雀仲間を連れて来たり。本当にいろんな人が集まる場所になっています。昼は「IRORI石巻」と「コミュニティカフェ かめ七」で過ごして、夜は「復興バー」で飲んで、夜は「復興民泊」に泊まる。そんな人たちも来てくれるようになりました。

「IRORI石巻」にはなんとヨルダンからの来訪者も!

半年前のインタビューで、「プロジェクトのゴールは?」という私の問いに対し、メンバーの西田さんから、「この回転している状態が継続すること」という回答をいただいていました。まさにその言葉が現実となっているような現状に対して、「場を持つということが大きかった」と飯田さんは言います。

夏頃まではとにかくがむしゃらに、目の前のことに対応して、石巻の人に名前や活動を覚えてもらうことに全力疾走でした。でもその後、地元の人のニーズがより明確になってきて、信頼関係もできてきて、僕らの人柄までも理解してくれて、ぐっと距離も縮まりました。

今度は、その場で終わってしまうイベントではなく、より地元に根ざすものをつくっていくフェーズ。これまで『石巻2.0』は、どちらかと言うとプラットフォームで、「概念」みたいなものだったんですが、「IRORI石巻」という場を持つことで人が集まり、コミュニティができ始めました。

ゆくゆくは、僕らが街の人との関係性をつくる受け皿となって、いろいろな職能を持った人や企業を集めて、ここから事業を生み出していきたいですね。

さらに飯田さんは、石巻の若い世代にも目を向けています。

今、若い人を育てるための「寺子屋」みたいな活動もしたいと思って動いているんです。学校では教えてもらえないような、IT技術とか、実際に手を動かす物づくりとか。新しい産業を作って雇用を生み出せば、シリコンバレーみたいにな場所になるかもしれない。石巻から発信するプロダクトや人材が、世界に通用するグレードの物になるかもしれないんです。

実際、石巻にいる学生の子と話していると、「これからの街をどうするか」ということを本気で考えていて、精神的に強くなっています。彼らの未来を後押しするようなことができればいいですね。

一時的な「イベント」から、継続的な「コミュニティ」、さらには未来をつくるステージへ。1年経った今、彼らの取り組みは、街のニーズの変化にあわせて、より地に足のついたものへと変化しているようです。

「石巻工房」では、子どもや高校生向けのワークショップも開催しています。


尾チョアを作る方法

商店街の67%が復活。石巻の光と影と

『石巻2.0』が拠点を置く石巻中央地区では、商店の約67%が営業を再開したとのこと。一見活気に溢れているように見えますが、実は、まだまだ問題が山積みです。先ほど飯田さんから「交流人口は増えている」というコメントがありましたが、一方で住民は減っており、石巻市全体では震災前に比べて約1万1,000人の減少(2011年2月と2012年1月の人口比較)となっています。また、建物の取り壊しも進んでおり、街を歩くと1ブロック何も無くなっているエリアも見かけます。飯田さんによると、行政側で川沿いに6〜7メートルもの高さの堤防をつくる計画があり、そうなると景色も変わってしまうため、店舗再開を迷う方もいるのだとか。

建物を取り壊した後の空き地が目立つ石巻中央エリア(2012年3月26日撮影)

もちろん、そういう影の部分もあります。でも、商店街の復活状況を見ても、このエリアは、"よそ者"が入っていることで確実に元気になっています。この石巻中央は、100年以上続く料亭や旅館など、昔からのカルチャーがあるところです。交流人口を増やすことで、大型ショッピングセンターなどとは違う、ここにしかないカルチャーをつくることができると思っています。

それに、行政の動きはやはり時間がかかります。例えば街づくりや防災計画に5年かかるとしたら、それまでの空白の時間に、僕らは街の人の声を拾い、良い意味のノイズをどんどんあげていきたい。そして、いざ計画が動き出すとき、机上で考えられた防災計画を見直すための火種になればいいな、と。

『石巻2.0』のメンバーも、街づくりに関する集まりには顔を出して、商工会議所の方々などと関係を持ち、意見交換をしています。僕らのできることは限られているかもしれない。でも、そのためにやれることはやっていきます。

『石巻2.0』の活動拠点は「石巻中央」と呼ばれる地区。でも石巻市は市町村合併の影響もあって非常に広く、先日ご紹介したお母さんたちのミサンガの制作拠点・牡鹿地区、「ワタノハスマイル」の渡波小学校のある渡波地区、映画『311』でも訪れていた大川小学校のある釜谷地区など、greenz.jpで取り上げたプロジェクトの拠点も各地に点在しています。地元の方に言わせると「石巻って言うけど、石巻のどこ?」と言いたくなるほど広域で、それぞれに状況も異なるそうです。

僕らは中央での活動ですが、すでに石巻では、それぞれの地区で街の人と一体となって取り組みを始めている人や団体がいる。「IRORI石巻」がコミュニティスペースとなったことによって、そんな彼らに横の連携が生まれ始めました。石巻は広いけど、それそれの点が線になって、最終的には面となることによって、より広域なビジョンも生みだすこともできると思います。

各地で行われる取り組みを結ぶ、石巻全体のプラットフォームとして。『石巻2.0』はまたひとつ、プロジェクトとしての新たな役割を見いだし、歩み始めたようです。

石巻市・門脇地区(2012年3月26日撮影)


人と人の「本物」の関わりの中で

様々なジャンルの人々が集まり、地元の人と一体となって新しい街をつくる『石巻2.0』。インタビューに答えてくださった飯田昭雄さんは広告代理店にお務めでしたが、今年からフリーランスという立場に転向。東京での仕事も持ちながら、石巻にも生活拠点を置き、行ったり来たりの日々を送っています。最後に、飯田さんご自身の、これからのプロジェクトへの関わり方について聞きました。

「広告の仕事をしている立場として何ができるか」と考えた時に、復興に携わりながらそこで仕事を生み出していくようなことができないかな、とも考えて、フリーランスの立場を選びました。街の人との関係性を築いてきた僕が、「何かしたい」と考えている企業をここに呼んで来れば、地元にもお金が落ちるし、自分もこの活動を続けていける。これからはそんなことにも取り組んでいきたいです。

街づくりや復興支援には全く携わったことがなかったという飯田さん。『石巻2.0』に関わる中で、ご自身の中にも大きな変化があったようです。

僕自身の中で大きく変わったのは、人との関係性のリアル感みたいなもの。商店街の人や、集まって来る大学生とか、ここでは対象者が目の前にいて、自分のやることが何のフィルターもなく相手に届いて、自分にも返ってくる。それは広告の仕事では味わえなかったものでした。そういう「本物」の人と人との関わりの中で、視野が広がっていったと感じています。

僕がここにいる理由は、やっぱり人なんですよね、結局は。出会った人たちがいるから、自分もここにいる。ただ、それだけです。

飯田さんが編集長を務めるフリーペーパー『石巻 VOICE』は、間もなく4月下旬に、第3号"CULTURE"が完成する予定。飯田さんが石巻の人々と向き合い、集めた声の数々が凝縮した一冊。ぜひ手に取って、石巻の今を感じてみてください。

『石巻2.0』飯田昭雄さん

次のステージへと動き出した『石巻2.0』。
これからもその動きを追い続けていきたいと思います。

プロジェクトの最新情報をチェックしよう!

半年前の取材記事を読んでみよう:その1

半年前の取材記事を読んでみよう:その2

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ライター紹介
池田 美砂子

池田美砂子(Ikeda Misako)。愛知県出身、茅ヶ崎在住。大学卒業後、電機メーカーのSEとして勤務中に気象予報士を取得し、気象業界へ転職。メディア向け気象情報のコンテンツプロデュースを手がける。現在は気象から環境、サステナビリティへとテーマをシフトし、フリーライターとして取材に執筆に勤しむ日々。茅ヶ崎で海のある生活をのんびりと楽しみながら文章を書き、ハイタッチ隊、green drinks Shonanの活動にも参加中。今のテーマは、インタビューにより人の想いを伝えること、現場に足を運び、場を伝えること。

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